【PICK UP ARTIST】”George Clanton”ジャンルから自らを解き放った”Vaporwave”のカリスマ

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今回の【PICK UP ARTIST】ではNY・ブルックリン在住、チルウェイヴやヴェイパーウェイヴをはじめとするネットミュージックシーンを牽引してきたGeorge Clanton。昨年リリースしたキャリア初である本名名義のアルバムの素晴らしさや、リリースに至った経緯を踏まえ、彼の魅力をお伝えします。

  1. ネットミュージックシーンのカリスマGeorge Clanton
  2. Vaporwaveとデジタルネイティヴ世代の戦略
  3. ジャンルという呪縛、葛藤から生まれた自分自身
  4. まとめ

1.ネットミュージックシーンのカリスマGeorge Clanton

George ClantonNYブルクッリンを拠点とするシンセポップヴェイパーウェイヴに分類されるアーティスト。これまで、Mirror Kisses、ESPRIT 空想の名で活動してきており、レーベル「100% Electronica」の主宰でもある。

この曲は2018年8月にリリースされた 本名である”George Clanton”として初のアルバム「Slide」 に収録されている。
My Bloody Valentineを彷彿とさせるシューゲイズ的で壮大なギターサウンド、曲全体に散りばめられた暖かく歪んだシンセサイザードラムブレイク、そしてGeorgeの大胆かつエモーショナルな叫びの歌声により、かなりパワフルなトラックとなっている。特にフックの熱量は相当のものだ。

もちろん、彼の十八番のであるヴェイパーウェイヴ的なアプローチはアルバム全体を通して確かに感じられるが、もはや“Vaporwave”という括りから飛び出し、彼がこれまでに受けた影響をまるごと凝縮した、”George Clanton”という人物を表現した作品となっている。

これまでにGeorge Clantonは「Mirror Kisses」という名義で10代の頃から活動してきており、チルウェイヴのアーティストとしてネット上のアンダーグラウンドシーンを騒がせていた。

そして、「ESPRIT 空想」の名義で2011年頃から初期ヴェイパーウェイヴの中心人物として認知されるようになる。彼が2014年にリリースした「 Virtua.zip 」は、アルバム全体をオリジナルの要素で制作した初のヴェイパーウェイヴ・アルバムと言われている。


アルバム「Heartbeats」より。Mirror Kissesの人気曲。

アルバム「200% Electronica」より。Vaporwave感満載の激ヤバなMVに注目。


2.Vaporwaveとデジタルネイティヴ世代の戦略

典型的なヴェイパーウェイヴサウンドでは、80~90年代の商業BGMなどのサンプリング打ち込みのドラムに、シンセを重ねるといった手法が取られることが多い。

そもそもヴェイパーウェイヴというジャンルは、ある種のカウンターカルチャーとして捉えられており、ラウンジミュージックや業務用BGM、パソコンの起動音のような効果音などをサンプリングすることから、大量に消費される商業音楽に対する反抗という側面が強かった。


Vaporwaveの代表曲であるMACINTOSH PLUSの「リサフランク420 / 現代のコンピュー」。


しかしヴェイパーウェイヴの登場後、インターネットを介して瞬く間に
世界中に浸透かえって似たような楽曲で溢れかえってしまうという皮肉に満ちた歴史も持っている。

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George自身も半ば冗談めかして、 「’vaporwaveのタグを使えば自動的にリスナーはいるし、確実に一定のリスナーは好んでくれる。『これはVaporwaveっぽい感じだし、しかも全然もっと良い音楽だ。』って感じで。」とシーンが内包する矛盾を逆手に取ったプロモーションをしていた。

そんな皮肉っぽいスタンスもありながら、Georgeの特徴的な点は、やはりインターネットを介した戦略的なプロモーションであると言えるだろう。
特筆して取り上げると、TwitchやYouTubeなどのLIVEストリーミングのプラットフォーム上で何万人ものファンにパフォーマンスを配信している。

さらに、彼の活躍はインターネット上だけに留まらない。実際のLIVEではココナッツの香りの蒸気を充満させ、巨大なLEDのバックスクリーンを背に、情熱的なLIVEを行うことでも知られている。

実際に、GeorgeはLIVEに対して強い思いがあり、パンク・ミュージシャンのように観客と一体になるパフォーマンスが彼にとってかなり重要だと述べている。

「(LIVEは)自分が本当に完全な幸せを感じられる唯一の時間って感じだよ。」
「自分が悲しい人物だと言っているわけじゃなくて、ただ、その瞬間のために生きているってことだよ。」

George Clanton live show image

3.ジャンルという呪縛、葛藤から生まれた自分自身

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ここ数年、Georgeは自分が誰であるかということと、シーンやファンが彼に何を望むか、という問題と戦い続けてきた。

前述の通り「Slide」は本名でリリースした初めてのアルバムである。アルバム「100% Electronica」はMirror Kissesと、「200% Electronica」はESPRIT 空想と、それぞれ 両名義でのリリースとなっている。

実はGeorgeは3年もの間「100% Electronica」の続編の制作に努めたが、失敗してしまったという。もうこれ以上音楽制作を続けるのは難しく感じるまでだったようだ。
そしてそのプロジェクトはきっぱりと諦め、自分の楽しみのためだけに音楽を作り始めたところ、驚くほど簡単に曲が出来上がったという。

「Slide」を聴けば、そんな彼のアーティストとしてのアイデンティティの危機は過ぎ去ったことが伝わるのではないだろうか。もはやチルウェイヴ、ヴェイパーウェイヴ、シンセポップといった文脈だけで語られることは無く、「Slide」はGeorge自身の確固たるシグネチャーサウンドの証なのである。

LIVEにおいてGeorgeは時折、自身が愛していると公言している「Seal」や「311」のTシャツを着る。そのことに対し「本当にSealが好きなの?」とか「君が311をイジるなんてウケるね!」と言った類のことをよく言われるらしい。

それに対して彼はこんなことを言っている。

「イジってるんじゃなくてマジで好きなんだよ。多分俺はちょっと大げさに主張してるけど、そういうシャツを着て 皆をむきにさせて『これが俺だよ。どう思う?』ってやるのが好きなんだよね。そしたらそいつらは『分かんないけど、ふざけてるんでしょう。』とか何とか言うけど。」

4.まとめ

自分が中心となったVaporwaveという”制約”から、自らを解き放つことで、Georgeはやっと自分自身を表現できるようになった。アーティスト活動をしている人であれば、彼のような葛藤を抱える人も少なくは無いはず。アーティストではなくとも、昨今の乱立する音楽のサブジャンルと飽和する似たような楽曲群に辟易している人もいるだろう。

今回のストーリーからも分かるように、自分が自分であることを肯定して初めて真のオリジナリティは生まれると筆者は感じた。それは、アーティストもリスナーも同じで、自分が好きという感情を信じて作ったり、聴いたり、その状況を認めることがポジティブな音楽人生の鍵ではないだろうか。

ちなみに、彼が主宰する「100% Electronica」のレーベルメイトであるNegative Geminiは現在の彼のガールフレンドだそうだ。LIVEでも共演しており、彼女の楽曲も素敵なのでGeorge Clantonが響いた人はチェックしてみるといいかも。

<Top image via Study Breaks Magazine>
<The other images via Flaunt Magazine, George Clanton.com, Seven Days, Facebook, PopGun Presents, Soda Bar>
<References i-D,Wisconsin Union>

by PLAN.net

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